過重労働(長時間労働)は脳疾患・心臓疾患・うつ病などの精神疾患の罹患リスクが高まる要因の一つです。過重労働を防ぐためにも、時間外労働・休日労働時間を減らす必要があります。
時間外・休日労働時間と健康障害のリスクの関係
厚生労働省は「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(平成18年3月17日付け基発第 0317008号、平成20年3月7日付基発第0307006号で一部改正)を策定し、時間外・休日労働の削減、労働者
の健康管理の徹底等を推進しています。
これによりますと、月100時間超または2~3か月平均で月80時間を超える場合、健康障害のリスクが高まるとしています。
このような労働時間であり、脳疾患・心臓疾患・うつ病などの精神疾患に罹患した場合、労災とみなされる可能性が高くなります。
過重労働と心理的負荷の関係
うつ病などの精神疾患に罹患した場合、『発病直前の1か月に概ね160時間を超えるような時間外労働を行っていた』、又は『発病直前の2か月間に、1か月当り概ね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった』時には心理的負荷は【大】と評価され、労災認定がされる可能性が大きくなります。
1か月に80時間以上の時間外労働を行った場合は心理的負担は【中】と評価されますが、この場合でも気を付けないければなりません。例えば、『顧客や取引先からクレームを受けた』『転勤をした』『上司の叱責の過程で業務指導の範囲を逸脱した発言があった(継続はない)』場合の心理的負荷は【中】と評価されます。
この二つの心理的負荷を全体的に評価した欠陥【中】+【中】=【大】と評価される場合があります。
ようするに評価【中】となる出来事があり、1か月に80時間以上の時間外労働をしていた場合、心理的負荷の評価は【大】とされ、うつ病などの精神疾患を罹患した時に労災認定がされる可能性があるのです。
法的な労働時間について
労働基準法によると1日の労働時間は8時間、1週間の労働時間は40時間となっています(労基法第32条)。(特例措置対象事業所の場合は週44時間)
これを超えて労働をさせる場合は36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結し、事前に所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません(労基法第36条)。
36協定提出せずに時間外労働・休日労働をさせた場合、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の処罰を受けることがあります(労基法第119条第1号)。
では36協定を締結、提出していれば何時間でも法定外労働を行う事ができるかと言うと、これには限度時間が設定されています。
一般労働者の場合 | 対象期間が3か月を超える1年単位の 変形労働時間制の対象者の場合 |
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期間 | 限度時間 | 期間 | 限度時間 |
1週間 | 15時間 | 1週間 | 14時間 |
2週間 | 27時間 | 2週間 | 25時間 |
4週間 | 43時間 | 4週間 | 40時間 |
1か月 | 45時間 | 1か月 | 42時間 |
2か月 | 81時間 | 2か月 | 75時間 |
3か月 | 120時間 | 3か月 | 110時間 |
1年間 | 360時間 | 1年間 | 320時間 |
36協定に関しては、上記のように法的罰則がある事からも、労働基準監督署の調査・臨検が行われた時に提出していない場合は、必ず是正勧告を受けます。
労働基準監督官の是正に対して、適性に対応しない場合は書類送検される可能性もあります。
健康障害や心理的負担が大になり、労災認定がされる可能性のある過重労働、長時間労働は、この法定外労働ができる限度時間(1か月45時間若しくは42時間)を大幅に超えていることになります。
長時間労働になる理由は?
長時間労働が本人の意思に基づいた「自発的長時間労働」と「非自発的長時間労働」に分けることができます。
「自発的長時間労働」はさらに「仕事中毒」「金銭インセンティブ」「出世願望」「人的資本の回収」「プロフェッショナルリズム」に、「非自発的長時間労働」は「市場の失敗」「職務の不明確さと企業内コーディネーションによる負担」「雇用調整のためのバッファー確保」「自発的長時間労働者からの負の外部効果」に分けることができます。(2010年,鶴光太郎,労働時間改革ー鳥瞰図としての視点ー,独立行政法人経済産業研究所)
自発的長時間労働
- 仕事中毒
- ワーカホリックと言われるような、仕事が純粋に好きで長時間労働を厭わない。
- 金銭的インセンティブ
- 時間外労働を増やすことにより残業対代を含めた所得を増やしたい考えている。
- 出世願望
- 評価や昇進機会を高めるための長時間労働。長時間労働が所属組織に対して忠誠心や仕事に対してのやる気を示す「信頼できるコミットメント」「シグナル」としての役割をしている。
- 人的資本の回収
- 医師、弁護士など多大な人的投資が必要な高度な専門職の場合など。必要な教育、訓練、資格取得に多大なつぎ込んだ場合、それに見合うリターン(労働の対価としての所得)を高めようとする。
- プロフェッショナリズム
- プロフェッショナリズム:専門職としてのプロ意識からくる労働規範。プロとしての一定水準の仕事をしようと思えば長時間労働は厭わないと言う信念。
非自発的長時間労働
- 市場の失敗
- 労働市場において労働者側が労働供給先をなかなか選ぶことができない状態で、使用者側の交渉力が強くなり、意に染まぬ長時間労働を選択せざるを得ない。
- 職務の不明確さと企業内コーディネーションによる負荷
- 自分の職務範囲が明確でない分、自分の仕事が終われば退職するという行動が取りにくい状態。さらに、日本的経済システムの特徴として、企業内の水平的コーディネーション、部門内、部門間での情報共有、ボトムアップ型意思決定により、情報の共有・伝達等に要する時間が長時間労働につながっている。
- 雇用調整のためのバッファー確保
- 日本の雇用調整は人員削除よりも所定外労働時間や賞与で調整する傾向が強い。不況期に人員調整をなるべく避けるためには、労働時間に相当の「削りしろ」が必要である。
- 自発的長時間労働者からの負の外部効果
- 自発的長時間労働者の存在によるマイナス影響。上司が仕事中毒や出世重視の自発的長時間労働者の場合、その部下は好む、好まざるにかかわらず、上司の長時間労働に付き合わなければならない。